ただ、僕は、もちろん、記憶が消えた訳ではないけど、そのあたりのことは、うっすらとしか思い出せない。

子どもの頃の悲しい記憶なんて、ずっと抱えていたくないものだ。

僕の両親の死に関しても、僕は思い出さないようにしていたんだから…

『奏ちゃんね、お父さんが大好きやったんよ。でも、お父さんがいなくなっても、顔には出せへんかったわ。最初こそ泣いたてたけど、すぐに笑顔でおったんよ。それが、逆に可哀想やって』

『…奏は、いつも笑ってました…』

『隼人君がいたからやと思うわ。隼人君が傍でいつも励ましてくれたから、頑張って元気になろうとしてたんやわ』

奏…

あの時は、まだ中学二年生だった。

ただ、奏を励まして、楽しい話をして、僕も必死だったんだ。

奏を悲しませたくない、その一心で…