「お前、何歳なの?」

「え? 15です」

「同い年か。高校はこの辺か?」

「女子学院です。ここから15分くらいの所にある……」

「俺、その隣の東葉高校に通ってるから」


 そこで会話が終了する。

通ってるからって……会いにいってもいいってこと?

だけど私、学校が終わったらすぐにお母さんの車で
帰宅しなくちゃいけないから、会えないだろうな。

中学1年生のときのあの事件から、
両親は私が登下校中に怪我をしないように、
車で送り迎えをしてくれている。  

 私が人と接触するのを、よく思っていない。
それくらい、私を守りたいというふたりの
気持ちは歪んでしまっていた。


「おい、どうした」


 考えこんでいたら、夜斗くんが心配そうに
顔をのぞきこんできた。


「いえ、なにも……。
あの、暴走族ってなにをしてるんですか?」


両親の思いを素直に受けいれられなくて、
気持ちが沈んでしまうのを悟られないように、
私は話を変えた。


「別になにも。縄張りを守る、
仲間を守る、ただそれだけだ」

「……っ、カッコいいです!」


パチパチッと拍手をすると、
夜斗くんはまた私の口を手で塞ぐ。


「ふぐっ」

「声がでけえよ、静かにしろ」


私はコクコクとうなずいて、
夜斗くんの手を口から剥がすと頭を下げる。


「ご、ごめんなさい」


 夜斗くん、追われてるんだった。
それにお父さんとお母さんも起きちゃうし、
もうちょっと声を抑えないと。

そう反省しつつ……。
私は身を乗りだして、夜斗くんに顔を近づける。


「なんだ」


夜斗くんは少しだけ身をのけぞらせて、
わずかに目を見張った。


「あの、ほかにも夜斗くんのいる
世界のことを教えてくださいっ」

「……は?」


 唖然としている夜斗くんの両腕をギュッと掴む。


「狼牙のお仲間さんは、どんな人たちなんですか?」

「そんなん、普通の……」

「集団でバイクに乗って、
道路を占領しちゃったりするんでしょうか!」


まくしたてるようにしゃべると、
夜斗くんが私の肩を掴んだ。

それから、距離を取るように軽く押す。


「落ちつけ、お前は質問ばっかだな」


呆れまじりにそう言われて、
やってしまったと気づく。


「私、また声が大きくなってましたか?」 

「大いに響きわたってる」

「うっ……ごめんなさい」


今を逃したら、夜斗くんのような外の世界の
人と話せる機会はもうないかもしれない。

そう思って、焦ってたのかも。


「別に、俺は逃げねえから」

「はい……」

「ゆっくり、ひとつずつ質問しろ」


 座りなおして、腰を落ちつける
夜斗くんにほっとする。