恋は小説よりも奇なり


湯飲み茶碗から白い湯気が立ちのぼる。

「先生、お茶をお持ちしました」

満が声を掛けると部屋の中から「どうぞ」と落ち着いた声音が返ってくる。

ただのお茶汲みも満にとってはとても新鮮味があり、少しだけ大人の気分にさせた。

「失礼します」

満が入室すると黒縁のメガネをかけた奏がこちらを見ていた。

市立図書館で初めて出会った時の事を思い出させる。

「お茶、ここに置きますね」

満はデスクのわきに湯飲みを置く。

水を打ったような静かな空間にコトッという物音だけが響いた。

お盆を抱え、軽く一礼して満が書斎を出ようと背を向けたしたところを「待ちなさい」と低く落ち着いた声が引きとめる。

「原稿をあげるまで少し時間が掛かりそうだ。その辺で本でも読んで待っていなさい」