恋は小説よりも奇なり


「お、お邪魔します」

満の緊張は並のものではない。

頭を下げる角度も自然と直角になる。

作家の家に入るのは初めてで、気を付けていなければ右の足と右の手が同時に出てしまいそうだ。

リビングには小さめの本棚とソファーがあり、白を基調とした室内は生活感があまり感じられない。

「適当に座ってくれ。今、何か用意する」

奏の気遣いに満は慌てた。

「いいえ、お構いなく!必要なら私が……」

作家にお茶を入れさせるなど有り得ない。

「そうか……」

満の迫力に押され、奏は手にしていた湯飲み茶碗を彼女に預けた。

「そうですよ。私は武長先生にお茶を淹れてもらいに来たんじゃないんです。先生は執筆に専念してください」

満はヤカンに水を注ぎ、火にかける。

「すまない」

奏は全てを満に任せて奥の部屋へと消えていった。