恋は小説よりも奇なり


「私は……先生の文章が早く読みたいです」

すぐにでもドアを閉めてしまおうとしていた奏だったが、その言葉に動きを止めた。

黒檀(こくたん)のような瞳がドアのわずかな隙間から彼の瞳を捉える。

「今の私は編集者みたいな仕事をしているけど本当の編集者じゃなくて……。 “作家の何が分かる!?”なんて言われたら多分何も言い返せなくて煮えくり返るほど悔しい思いとかするんでしょうけど――…
それでも武長 奏の文章は私の生きる糧だから……」



生きる糧――…



奏は眉をひそめた。

珠子が同じことを口にすれば容赦なく追い返して二度と会うことはないだろう。

しかし、ドアの向こうにいるのは珠子ではない。

一端の編集者気取りではあるが編集者でもない。