***
大学の冬休み。
期間限定の助っ人として高津書房で働き始めた満は編集社からほど近い高級マンションの廊下を歩いていた。
そこは作家 武長 奏の仕事場兼自宅マンションだ。
『満ちゃん、ごめん!悪いんだけど武長大バカ先生のところに行って原稿ふんだくってきてくれないかなぁ。電話線ブッチして家に立てこもってるのよ……』
珠子がこの世の不幸を一身に背負ったような深刻な表情で満に頼み込んできたのが約三十分前のこと。
『そっ……そんな!私なんかにはとても――…』
満は異議を申し立てた。
勿論、仕事が嫌なわけではない。
好きで憧れて何でも出来るようになりたいと願っているからこそ、今の自分に可能な仕事のキャパシティーが分かるもの。
アルバイト数日の若輩者に作家の原稿回収など荷が重すぎて潰れかねない。



