恋は小説よりも奇なり


今となっては、あれを“渡した”と言っていいものかさえ甚(はなは)だ疑問だ。

心を落ち着かせようと満はグラスに入った烏龍茶を半分ぐらいまで一気飲みする。

「武長先生、怒っていませんでしたか?」

「怒ってたっていうか、ものすごく荒れてたわね」

やっぱり……と満は落胆した。

そもそもあれで不愉快にならない方がどうかしている。

そして、めちゃくちゃ不機嫌な担当作家の被害を受けたのはきっと目の前にいる担当編集者だ。

満は彼女に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

この広いテーブルに何度も頭をぶつけながら謝罪したいぐらいに。

「私のせいですみませんでした……」

「どうして満ちゃんが謝るの?」

理由が分からないといった風に珠子が首を傾げる。