恋は小説よりも奇なり


「薄情な奴だな……」

「どっちが。大体、そんなことを考えている暇があるなら原稿の一枚でもあげて下さい。いいですね?」

遅い春が来たと期待していた分だけ珠子の冷たさは普段より割り増しだ。

原稿のことを出されると奏は何も言えなくなってしまう。

彼の視線は反抗期の子どものように顔ごと別の方を向いた。

珠子はコーヒーカップを片付け、帰り支度をする。

「また連絡します」

奏は冷めたコーヒーをすすり「あぁ」と無愛想に返すだけだった。



マンションを出た珠子はまっすぐ帰社する。

「瀬戸 満――…ね」

担当作家の口から見知らぬ女性の名が零れた。

珠子の顔に小さな笑みが浮かぶ。


これは面白くなりそうだ……


今後の武長 奏に何かが起こるかもしれないと人知れず期待した。