恋は小説よりも奇なり


「万年筆をもらったのは事実だが、偶然たまたまそういう状況になって、なんやかんやで受け取ることになってしまったというだけのこと」

奏の口調はこころなしか早口になっている。

その口調に合わせるように、小説の背表紙に自らのサインを殴り書いった。

「三度しか会っていない女だ。もらいっぱなしでいいと思えるほど親しくもなんでもない女だ」

リビングに持ち込んだ小説にサインを書き終えると、奏はそれを珠子の前に置いた。

カップの中のコーヒーがわずかに波を立てる。

「先生、まさかサイン入りの小説をその子に……?」

珠子はさらに驚いて、入念に確認する。

稀(まれ)に開催しているサイン会すら駄々をこねる武長 奏が、自分の意思でサインを書いたなどとても信じられなかった。