嫌じゃない。
奏はそれだけで十分だった。
『次は――…』
車内にアナウンスが鳴り響く。
彼らはほぼ同時に立ち上がり電車を降りた。
電車を降りて夜道を歩く。
二人でこの道を並んで歩くのはこれで二度目だ。
前の時とは違って、満の横にはちゃんと奏がいた。
彼なりに歩く速度を気にしている。
閑静な住宅街には街灯と家の窓から漏れる灯りがともっていた。
「あの……」
今度は満から声を掛ける。
奏は歩きながら彼女に視線を向けた。
「お誕生日おめでとうございます」
唐突過ぎる祝いの言葉。
奏の目がほんの少し見開かれた。
「何だ、藪から棒に……。そういうのならさっき店で言っただろう」
奏は決まり悪そうにして余所を向いてしまう。
改めて言われたものだから照れ隠しの意味もあった。



