恋は小説よりも奇なり


夏でもないのに満の背中にはツーっと汗が伝わるような緊張感が走った。

二人の間に再び沈黙が流れ始める。

到着駅までにはまだ少し時間があった。

通過駅でサラリーマン風の男性が数人乗車してきた。

「大和の方が良かったなら、なぜ早いうちに言わない」

「そういうわけじゃなくて……」

「今更、気を遣うこともないだろう?散々“いいです”と喚(わめ)いておいて」

奏が思わず苦笑する。

「それはその、武長さ……武長先生が嫌だからとかじゃなくて……むしろ私は――…」

満が言葉を返そうとした瞬間に電車はトンネルに入る。

頼りない小さな声は雑音に掻き消されてしまい、奏の元へは届かなかった。

トンネルを抜けてからの車内に元のように静けさが戻る。

聞き取れなかった言葉の続きを奏が問うことはなかった。