恋は小説よりも奇なり


終電間近の車内は怖いほど静かだ。

乗客は満と奏以外ほとんど見られない。

泥酔している中年男性が時々小さな鼻いびきをかいて気持ち良さそうに眠っている。

二人の間に会話らしい会話はない。

結局のところ再び迷惑をかけてしまった上、人気作家 武長 奏を大学生の護衛に使ってしまっている今の状況がなんとも恐れ多くて、とても満から話しかけられるものではかった。

「――…俺で良かったのか?」

そんな満の心中を知ってか知らずか静寂が漂う車内で声を発した。

満は奏の方を向いて首を傾げる。

「俺と一緒に帰ることになって良かったのか、と聞いている」

「それは……」

満が言葉を詰まらせると、横で小さな溜息が零れるのが聞こえた。

こんな状況下で即答できるものか。