恋は小説よりも奇なり


何気ない一言だった。

決して樹に悪気があったわけではない。

彼女なりに主役である武長 奏のことを調べ、それを会話のひとつとして盛り込んだだけだ。

ただ、その場の空気が一瞬ひどく緊張したのをここにいる誰もが感じ取った。

「あれ……アタシ何かいけないこと――…」

樹が困惑していると、彼女の横に座っている大和がニッコリ笑って「大丈夫」と言葉をかけた。

満はそんな大和をみて初めて彼を大人の男性だと心から思う。

親の七光りというだけであの高津書房の専務を名乗っているわけではないのだ。

「ケーキ食おう、ケーキ」

大和は変わらない明るい声でボーイを呼び、バースデーケーキを持ってくるように頼む。

ピリッとした空気は無意識のものだったようで、奏もすぐにいつも通りの雰囲気に戻り「俺が甘いものは苦手だと知っているだろう……」と不満を零した。