恋は小説よりも奇なり


その日、珠子は初めて知った。

武長 奏が紡ぐ小説はいつも少し殺伐としていて切なく、気を抜けば壊れてしまう硝子細工のようで目が離せないのは単なる作風ではないということを。



「ハイハイ、それで手を打ちましょう。この愛はぜーんぶ私が貰いますもんね。後から欲しいって泣きついてもあげませんから」

珠子はプリプリと小言を洩らしダンボールを横へずらす。

「誰が泣きつくか……」と奏から可愛気の無い返事がくるのは知れた事だった。

メガトン級の気難しさを持った小説家。

彼が本当の愛情を再び知った時、今よりも比べ物にならないほど素敵な物語ができるのだろうと珠子は思い続けている。


武長 奏の担当として、ひとりのファンとして自分にできること――…


珠子はビジネスバッグから打ち合わせ用の書類を出した。