「お~、怖い怖い。奏は昔からこれだ。自分のお気に入りに手を出そうとするとすぐムキになって――…」
男は奏の威嚇など屁のカッパとでも言いたそうにわざとらしく両手を挙げてみせた。
「なんだと!?」
奏の不快感はさらに増し、眉間の皺がより一層くっきりと刻まれる。
「ご機嫌斜めな奴は放っておいてさ。申し遅れました、私(わたくし)はこういう者です」
男は背広のポケットから品のある名刺入れを取り出し、そこから一枚の名刺を満に差し出した。
「あ、ありがとうございます……」
大学生の満にとって名刺をもらう機会など滅多に無いため、少し緊張した面持ちでそれを受け取る。
株式会社 高津書房
専務取締役 高津 大和(たかつ やまと)
印刷された会社名とその役職を見て、満の両手は小刻みに震えた。



