「あの、これはもしかしなくても……て、手切れ本ですか?」
過去の悪夢が満の中で甦る。
プルプルと小刻みに手を震わせながら小説を手にしていた。
「お前……そんなに俺と離れたいか?」
少し憮然としたように奏が言う。
「ちっ、違いますよ!ただ、ちょっと不安なだけです……。先生の傍にいるのが本当に私なんかでいいんだろうかって。
長い長い夢を見ていて、目が覚めたら誰もいなくて、一人ベッドの上でぼんやり朝を迎えるんじゃないかなって」
「なにを今更。そうなっても現実だと気付けるように俺がこの本を書いたというのに。夢ならもっと極上の物語を書いている。それこそ夢のようなラブストーリーをな。
少なくとも脚立から落ちたり、ブーケを取り損ねるような主人公はいただけない」
奏は不安がる満の後ろに手を回し、ポンポンと小さな頭を撫でた。



