「何を馬鹿な事を言っている。並ぶ訳ないだろう」
「で、ですよねー……」
満は心底ホッとした。
安心すると混乱でグチャグチャだった頭がすっきりしてくる。
「でも、それならどうしてこの小説を書いたんです?」
新たに浮かんだ疑問を満が問いかけると、奏は黙って満の手から小説を抜き取った。
そして、背広から一本の万年筆を取り出す。
以前、満が誕生日に贈ったものだ。
「知っておいてもらいたかったんだ……雪乃に。十年経った今、誰かさんのお蔭でさほど悪くない人生を送っていると。
そして、それをお前にも持っていてもらう事で俺はこの出会いを現実として信じていられる気がした」
「武長先生……」
「ほら。これで一度渡した本を勝手に持ち帰った件はチャラだ」
奏は万年筆で小説の表紙裏にサインを書いて満に戻した。



