恋は小説よりも奇なり



彼の笑顔を見ると満の心臓はドキドキする。

自分の胸の音が大きく聞こえた。

静寂に満ちたこの場所では奏にもその音が聞こえてしまいそうだ。

怖くなった満は「これは何ですか?」と彼の意識を別のところへ向けようと努めた。

満が示したのは奏がずっと持っていた小さな紙袋。

彼は紙袋の中から一冊の本を取り出して満に手渡した。

淡い鴇色(ときいろ)の表紙。
銀色で書かれた題字。

それ以外に目立った柄はない。

「恋は小説よりも奇なり……?」

聞き覚えのない作品に首を傾げる満。

本を開くとそこには自分の名前と同じ登場人物がいる。
そして、奏の名前も――…

色々と聞きたいことがあり過ぎて何から尋ねていいのか分からない。

ドッと出てきた質問の数々がまとまらなくて、満は奏の顔をキョトンと眺めるしかできなかった。