恋は小説よりも奇なり


仕方なく彼女の後をついて行こうとした樹の傍を長身の男性が通り過ぎていった。

「満!」

満の名前を呼ぶのは先ほど通り過ぎた男性。

樹は男性の姿を確認して安堵した。


これで自分の役目は終わったと……


後の事は改めて聞けばいい。

そう思うと樹は空港の出口へ向かって踵(きびす)を返した。

アナウンスや人の声でごった返す館内で満は自分の名を呼ぶ声を聞く。

振り返るとそこにはつい先ほどまで話の中心にあった人物が立っていた。

「あの……なぜここに先生が?」

尋ねられても奏は息切れですぐに返事ができない。

満は彼の呼吸が整うのをただじっと待つ。

シワシワのYシャツ一枚で上着なし。

外に出るには少し肌寒い格好。

読書や執筆中以外はあまり見ることのなかった眼鏡姿。