恋は小説よりも奇なり


文芸フロアは静かで凛とした空気が漂っている。

鼻腔をくすぐる真新しい紙の匂い。

図書館のような癖のある香りはしないが、これはこれで満の好きな香りだった。

「武長 奏の棚は――…」

視力が低い満は自前の瓶底メガネをしっかりかけ直し、少し前かがみ気味に本棚へ近づいて探す。

タ行の棚を念入りにチェックしながらのカニ歩き。

目線の先には小説しか見えていない。

不恰好なカニ歩きで小説を探していると、身体にドンと柔らかい衝撃を感じた。

「あっ……ごめんなさ――…」

「いいえ、こちらこそすみま――…」

満と相手の声が重なる。

二人の視線が合わさると、彼らは瞬間冷凍されたみたいに動かなくなってしまった。

満の目の前に立つのは図書館で出逢ったあの男。

そして、彼の横にはスーツ姿の男性がいる。