「“大切だから君には誰よりも幸せになって欲しい”そんな言葉を女の肩抱きながら言うかね……普通。
仮にも小説家ならもっと考えなさい……てのよ」
立派に悪態つくのに絢子の目は伏せられたまま。
「先生は恋愛小説を書かないので……」
「書けないわよ、あんなのじゃ!乙女心の“お”の字も分からない作家が書いたラブストーリーなんて読むのは、きっとあなたみたいな武長バカだけよ……」
「武長バカって……。いや……否定はしませんけど」
突如付けられた称号に苦笑する満。
武長 奏が書いたラブストーリーならどんな駄作でも読みたいと言える自信はあった。
「……どうして分からないかな。あなたを幸せにしてあげる事が私の幸せなんだって。いや……気付いても同じか。私とあの人は距離が近すぎる。
どんなに同じものを共有しても前には進めない。鏡は見ればとても安心するけれど、それだけ……」
絢子の声が切なく車内に広がる。



