恋は小説よりも奇なり


「大丈夫。今日はバイトっていっても閉店後に店長からカットの指導を受ける約束をしてて、閉店前じゃないと行っても邪魔になるだけだから」

「それならいいんだけど」

満は納得して頷いた。

「好きなコミックの発売日が今日だってことスッカリ忘れてたんだよね。これのために今月は頑張ってきたようなものなんだから、早く早く!」

樹は満よりも少しだけ前を歩き、時々振り返っては満に向かって手招きをしている。

「マンガは逃げないから」

天真爛漫な彼女を見て満は笑った。



エレベーターの中は妙に蒸し暑い。

文芸のフロアは三階で、コミックフロアは四階にある。

「じゃあ、マンガ買ったらすぐそっちに行くから」

エレベーターの“開”ボタンを押しながら樹が言う。

満は「了解」と手短に返事をしてエレベーターを降りた。