恋は小説よりも奇なり


「失礼します」

満は軽く挨拶をして入室した。

たしかに中から声がしたはずなのに研究室には人の影がない。

ありえない現状に困惑していると、デスクの上に山のように重ねられた書物の間から干し柿のような皺くちゃな手がニョキッと飛び出てきた。

齢(よわい)七十をこえたおじいちゃん教授である中島教授の小さな身体は、本の山に埋もれて見えなくなっていただけだった。

「早かったのぉ、瀬戸ちゃん」

中島教授は本をカサゴソかき分けながら満に話しかける。

満もすぐにその作業を手伝った。

「梓さんが行ってきてもいいって言って下さったので」

「そうかい。相変わらず寺本ちゃんは気が利く子じゃな」

本と本の隙間からポロッと小さな袋が出てきた。

満はその袋を手に取り「これ何ですか?」と中島教授に尋ねる。