「先生……違うよ。雪乃さんは先生が大好きだから最後に会いに来たんだよ。大切だから何も言えなかったんだよ……」
零れ落ちるような言葉に奏の顔がみるみる険しくなった。
ガタンと音を立ててベンチから立ち上がる。
椅子の上に置かれていた本はコトッと芝に落ちた。
「好きならなぜ離れる必要がある!?大切ならすべてを話して傍に置けばいい!そうすれば俺だって――…」
心が痛い。
そう彼は言っている。
抑揚(よくよう)をつけて、悲痛そうに声を上げた。
「だから……だよ。“傍にいて”って言えば、先生はきっと自分が消える瞬間まで一緒にいてくれる。優しい優しいあなたに誰がそんなこと言えるの……」
立ち上がった満は落ちた本を拾い上げて奏の正面へ。
彼の大きな手を取って本を乗せた。



