「……もう充分です」
奏の話を黙って聞いていた満がついに重たい口を開いた。
春なのに氷のように冷たい手。
誰かが捕まえていないと今にも消えてしまいそうだと感じた。
「……もう少し。ここからは大和も絢ちゃんも恐らく知らない」
満は再び口を閉ざす。
彼が消えてしまわないようにその手をしっかり握ったまま。
「雪乃と別れたあの日、彼女は俺の部屋に手帳を忘れていった。手帳は人の心。開けてはならないパンドラの箱。たとえどんなに親しい間柄であっても開けるべきではなかった……」
奏はしばらく沈黙する。
この次の言葉を出す覚悟をしているようだった。
「ガンだったんだ……」
喉の奥からしぼり出された奏の言葉に満の呼吸は一瞬止まった。



