奏が振り向く。

満の存在に気付いて切れ長の目が少しだけ大きくなる。

「どうしてお前がこんなところにいる……」

「先生だって……」

互いに言葉が出ず、辺りは草木がそよぐ音と鳥の囀(さえず)りだけで満たされた。

ここだけ時の流れが止まってしまったよう。

「まぁ、なんだ……久しぶりとでも言うべきか」

「は、はい。お久しぶりです」

満は直角に腰を折って深くお辞儀をした。

彼が目の前にいると思うだけで緊張してしまう。

いつもどんな風に話していたのかさえ思い出せない。

その緊張は彼にもなんとなく伝わっていた。

いつもと違う態度の満に苦笑する。

「時間があれば少し話さないか?」

満は顔を上げた状態のまま固まる。

自分の都合の良いように聞き違いをしているのかもしれないと思うとすぐに返事ができなかった。