『まぁ……先生ってなんだかんだ言いながら面倒見いいほうだし、優しい時もあるから恋しちゃう子もいるんじゃないですかね』
「俺はもう――…」
『分かっていますよ。無駄だって言いたいのでしょう。それでも、結局人の想いって止められるものじゃないから。一度気持ちに気付いたら本人にだって止められない。
辛くて苦しくて泣こうがどうしようが……ね。正直、それは先生が一番知っていると思っていました』
「…………」
奏は珠子の言葉に何も言えなかった。
そのまま通話ボタンを押して会話を終了させてしまった。
電話機を無造作にテーブルへ転がす。
気遣っているのか珠子から電話が折り返されることはなかった。
十年間、しまい込んできた感情。
これから先も引き出すことはないはずだった感情。
カタカタと心の奥で音を立てた。



