恋は小説よりも奇なり


絢子が階段から落ちないように奏はその細い腕をがっしりつかまえていた。

「ほらみろ。大体、石階段の墓場にそんな靴で来るヤツがあるか」

絢子の黒いハイヒールに視線を落とした奏が呆れ顔で言うと、彼女は少しがっかりした風に「ごめんなさい……」と謝った。

「ねぇ、武長さん。私のこと怒ってるでしょう?」

「なぜ?」

「強引にデートしようなんて誘ったから」

「そんなことはない。ただ、行先がこの場所とは少し驚いた……」

「武長さん、雪乃姉さんが死んでから十年間、数えられるほどしかここに来てないじゃない。たまに来る時も必ず一人で来るんでしょう……」

「……」

奏は口を噤(つぐ)んだ。

奏がこの土地を訪れたのは十年間でたった三回。