恋は小説よりも奇なり


書いてある文字は決して達筆というわけではないが、スマートでどこか味わい深い感じがした。

鉛筆を握る男の指は男性にしては細くて綺麗。

改めて思う事は、彼はやはり端正な顔立ちだということ。

「……お前は本を読んでいるのか、それとも俺を見ているのか?」

男は満の視線に耐え兼ねてポツリと問いかけた。

鉛筆を動かす手を止めない。

まさか、自分の行動が気付かれていたなどと思わなかった満は、虚(きょ)を衝(つ)かれて目を見開く。

驚きの表情をとっさに小説で隠した。

「本を読んでます!断じて、あなたの顔を見ているわけではありません」

男がクスリと口角を吊り上げる。


あっ、今笑った――…


小説の端から覗いた彼の小さな笑顔に、満は不覚にもドキッとしてしまう。

男の笑みは気のせいで片付けてしまいそうなぐらい一瞬のものだった。

彼は「そうか」とだけ返事をして再び口を閉じた。