恋は小説よりも奇なり


「煙草を買いに来ただけだが……」

「こんなところまで来なくてもどこにでもあるじゃないですか」

尤もらしい樹の返答に言葉が出ない奏。

煙草などマンション前の自動販売機で購入すれば事足りることだった。

こんな場所まで出向いたのは、要件も告げず帰ってしまった満の様子が柄にもなく気になったから。

満と会ったところで自分は何を話すつもりだったのだろうか。

考えなしだったことに奏は心の中で自嘲した。

「満……こんなにベロベロに酔うほど飲む子じゃないんですよ」

樹は奏の背中で眠る満に視線を向ける。

アルコールで頬がほのかに赤らんでいた。

こんなに取り乱した満を見たのは樹も初めてだった。

奏は樹の言葉に「そうか」と一言頷く。