恋は小説よりも奇なり


人目につく大通りから個室風の座敷が並ぶ居酒屋へと場所を移し、注文した料理が運ばれるのを待っている間に満は奏のマンションで見たことを樹に話して聞かせた。



「――…ふーん、武長さんの部屋に見た事のない女かぁ……。しかも、やけに親しげな雰囲気ときた。
まぁ、普通に考えればそれって恋人同士だよね」

樹の冷静な分析は満の心に特大の棘を刺した。

「あのルックスでそれなりに地位もお金もあって……。浮ついた話のひとつもなければある意味そっちの方が問題だよ」

グサグサと棘が繰り返し抜き差しされていく。

心は蓮根(れんこん)の断面みたいに穴ボコだらけだ。

「“アヤちゃん”って呼んでた……」

出したくないことを口にして、自分自身の手で穴を増やしてしまった。

彼に恋人がいようと誰かを“チャン”付けで呼ぼうと異論を唱える権利は今の満には微塵もない。

それが分かっているからこそ、勝手に気にして勝手に落ち込んでいる自分が嫌になった。