恋は小説よりも奇なり


結局、奏がフロアを全て回って戻ってくるまで満はその絵画の前に立っていた。

たった一枚の絵にキラキラと瞳を輝かせている彼女の姿が、奏には生前の雪乃と重なって見えた。



雪乃……



心の中で名前を呼ぶと閉め切っていた扉がカタカタと音を鳴らす。

繰り返すたびに大きくなる心の音が鍵を開けろと訴えているようで、目の前のこの光景をさっさと消してしまいたい気持ちにさせた。

「帰るぞ」

奏が声をかけると満は「はい」と頷く。

個展の出入り口で入る時に挨拶をしてくれた男性に奏は「ありがとう。また来ます」と一言声を掛けた。

満も彼の後ろからペコッと会釈する。

「またのご来館をお待ち申し上げております」

男性はより丁寧お辞儀をして二人を見送ってくれた。

綺麗な世界と別れるのが名残惜しくて、満は何度も個展を振り返るのだった。