「馬鹿なのか、お前は」
「バ、バカって――…」
満はくわっと目を見開いて奏の顔をみた。
「“好き”にも色々あるだろ。友人として、家族として、師弟としてとか」
奏は書き上げたばかりの原稿を満の頭上にポンと乗せる。
頭にずっしりと重みを感じて、満は小説を置いて代わりにそれを手にした。
「まぁ、それこそお前の俺に対する“好き”なんか人間としてさえないはずだからな。お前は俺が好きなんじゃない。俺の言葉が……文章が好きなだけだ」
「すみません……」
満は思わず謝ってしまう。
しかし、すぐに失言だったことに気付いて口を両手で覆った。
満の中で武長 奏はいつでも作家として存在している。
本人と会話している今でさえ彼は作家なのだ。
奏と出会って小説家だと知ってから、彼を作家以外の目で見たことは一度も無かった気がする。



