恋は小説よりも奇なり


物語の世界から一気に現実へと引き戻された満は「うひゃっ!?」と素っ頓狂な声をあげてしまった。

「無言の原稿催促(さいそく)でもしているつもりか」

「そんなまさか!」

「それとも、よほど俺の事が好きか……」

奏はしれっと言葉を紡ぐと、手を伸ばして満が開きっぱなしにしている小説の一ページをめくった。

彼の吐息を感じられるほどの距離。

満の顔が火照ってじわじわと赤みを帯びていく。


武長 奏が好きだ。


どんなに素晴らしい賞を持っている著名な作家よりも満は武長 奏が好きだ。


そんな気持ちを見透かされていると思うと俯いたまま言葉にならなかった。

奏は満の反応に唖然とする。

そして、妙な空気になりつつあるのを彼自身ひしひしと感じていた。