「これ――…」
偶然取った青いハードカバー本。
武長 奏著の『ブルーバードがゆく空』だ。
作家の自宅に自分で執筆した本があることは何の不思議もない。
満の目に留まったのは小説自体ではなく、裏表紙に記された奏のサインだった。
「それ、欲しければ持って帰ればいい」
奏は満が手にしているサイン入り小説を顎で示して言う。
彼の声に反応して本棚に背を向けて立つ満だが、奏が言ったことがきちんと理解できると目をむいて驚いた。
「で、でも!先生のサインが入っているんですよ!?こんな貴重なもの私……いただけません!」
武長 奏は滅多なことがなければ公(おおやけ)に顔を出さないことで有名な作家だ。
ファンならば喉から手がでるほど欲しい代物。
サイン入りの小説を持っていることさえ急に恐れ多くなり、満はそれをそっと本棚へ戻そうと考えた。



