「そろそろ・・・いくね」

何度も彼女を見送ってきた。

見慣れたはずの背中なのに、これが最後だと思うとこの胸に抱きしめたくなる。

どうしてこうなってしまったのだろう。

僕は彼女の姿を見ていたつもりだったが、いつからかそれだけになっていたのかもしれない。

見ているだけで、彼女に歩み寄ることをやめてしまった。

「・・・そうだな」

最後に僕は笑う。

二人が出会ったときと同じように。

最後に僕は手を振る。

あの日のように。

明日からは僕たちは一人だ。

彼女を待っていた時間が無くなることに、少しだけ戸惑うかもしれない。

だから、慣れるまではほんの少しだけ思い出すことを許してほしい。

きっと、今どれほどの言葉を並べても、この気持ちを彼女には言い尽くせないだろう。

たった一言で終わってしまうこともあるというのに。