「拓人、そろそろ降りる」
「もう?」
「もうって……いつもより遅いよ」
初めて見る拓人。
完璧で、忠実で、真面目な人だと思っていたけれど。
どうやらそれは“執事の拓人”に限るようで。
今は私の言うことを聞いてくれない。
じゃあこれが、“本来の拓人の姿”?
「俺はまだこのままがいい」
ほら、やっぱり。
拓人がぎゅっと私を抱きしめる。
「拓人は実は、甘えん坊なの?」
「んー、どうだろう。ただ、美紅に対してだけ触れたくなる」
「私だけ?」
「そう。美紅だけだよ」
私、だけ。
なんだか特別扱いされているようで、嬉しい。
「なら、あと少しだけね」
「本当?嬉しいなあ」
本当に嬉しそうな拓人の声。
いつもより幼く感じて、少しかわいいと思ってしまう。
そんな拓人に身を任せながら、その間もやっぱり胸がドキドキしていた。



