「もしかして」
拓人が私の耳元に唇を寄せ、運転手に聞こえないよう、そっと囁いた。
「キスのこと、思い出した?」
拓人の息がかかり、肩がビクッと跳ねる。
意地悪だ。
わかっているのに聞いてくるだなんて。
「……拓人の意地悪」
どこまでも優しい人だと思っていたのに。
そんなことを言われたら、さらに恥ずかしさを思い出してしまう。
「やっぱり正解だ」
拓人が私の頬にそっと触れてくるから、さらに体温が上昇する。
「た、くと……学校、行かないと」
「俺たちはいつも早いから、時間に余裕はあるよ」
「行きたいから行くの。
拓人、私に忠誠誓ってくれたのに」
「残念だけど、今は恋人同士だから話は別だよ」
話は別って……ずるい。
そんなの、都合のいい解釈だ。



