「泣かないでください。
お嬢様は随分強くなられました」

「弱いよ私…弱いの」
「心は強くあってくださいお嬢様」


拓人の瞳が揺らぐ。
もしかして彼自身、無理をしているのだろうか。


「逃げ出したい…どうせなら」

「お嬢様、それはいけません。
榊原家の名に恥じぬよう行動してください」


ああ、やっぱり今の拓人は“執事”の姿である。
優しさもあるけれど、厳しくもある。


「ううっ…」

「まずは朝食を済ませましょう。
元気をつけないと何も始まりません」


なかなかベッドから降りないからだろう、拓人に誘導されてしまう私。

結局暗い気持ちのまま時間だけがすぎていく。


ご飯を済ませ、準備をして。
婚約者が来るのを待っていた。