数日後。
「お嬢様、おはようございます。
お目覚めの時間ですよ」
「……ん」
目を開けると視界いっぱいに拓人の顔が映る。
彼は相変わらず迷いのない笑顔だ。
「今日は婚約者であるご子息と会うのです。
シャキッとしてください」
「できないもん…」
そんな簡単に言うけれど、私にとったら簡単ではない。
婚約者が決まったと告げられた日、私と拓人は一線を超えた。
私を攫う“悪い男”になった拓人は、ずっと愛を囁いてくれて。
私の名前を呼ばれるたび、全身が甘く痺れるような感覚がした。
そんな幸せな時間はあっという間に過ぎてしまい、ついに婚約者と会う日が訪れてしまったのである。