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どうか、ずっと拓人といられますように。
そう何度も願っていたというのに、神様は意地悪で。
「美紅、言うのが遅くなったが婚約者が決まった」
それから間も無くして、お父さんから告げられた“婚約者”の話。
聞きたくなく、今すぐその場から逃げ出したくなったけれど。
「相手は有名企業のご子息だ。
ちゃんと無礼のない態度をしなさい。
婚約破棄となれば私たち榊原家の未来はない」
「……っ」
もしここで私が下手に動いてしまったら。
もし拓人と逃げ出してしまったら。
私は幸せになれたとしても、両親は不幸になってしまう。
両親だけではない。
榊原家に仕えてくれている全員に迷惑がかかってしまうのだ。



