「寝るから……拓人」
「お嬢様、安心してください。
本日はこのような状況になった場合に、どう逃れるかの練習です」
「練習…?」
「左様でございます。つまり、手を出すようなことは致しません」
穏やかな笑みを浮かべる拓人。
きっと嘘ではない。
その言葉を聞いて安心した私は、ふっと体の力が抜ける。
「しかしお嬢様、ずっと安心している場合ではございません」
「あっ……」
そうだ、安心のあまり頭から抜け落ちていた。
これは拓人からどう逃れるかの練習だったのだ。
「で、でも拓人って力が強いから…」
「お嬢様はか弱いので、恐らく男には敵いませんね」
「じゃあどうすればいい?」
ジムに通ったり、空手などを習うということしか頭に浮かばない私。
つまり、今この状況をどう逃れるかということに関しては、いい方法などまったく考えられない。
「油断させる」
「え……」
「素直に従っているのを見ると、人は油断するものです。その隙を狙えばいいでしょう」
素直に従う……じゃあ、大人しくすればいいの?
拓人の言う通り、抵抗をやめてじっと彼を見つめる。
距離が近いため、胸はドキドキとうるさい。



