「それではお嬢様、もう遅いですので寝ましょうか」
「うん、そうする」
拓人の言葉に安心した私は素直に受け入れ、横になろうとしたのだけれど。
「……あ、お嬢様」
拓人が何かを思い出したように私の名前を呼んだから、横になるのをやめて彼を見上げる。
「どうしたの?」
「私としたことが、忘れていました」
「忘れてた?」
「本日のキスの勉強です」
「……っ!?」
この穏やかな気持ちのまま眠りにつきたかったのに。
拓人はここに来てまた私の鼓動を速くさせ、睡眠を妨げてきた。
「きょ、今日はもうキスしたから…」
「言ったはずです。あれは勉強ではありません」
「で、でも今日はだいじょ…」
「いけません。毎日しないとこの勉強に意味はありません」
絶対嘘だ。
勉強と言ってするキスも、今日したキスも、“拓人からのキス”に違いはない。
だから別に、今日はもうキスの勉強をしなくていいのだ。



