「で、でも私は、親に決められた相手と結婚しなくちゃならないんでしょ?」
それは拓人が言っていたこと。
将来、親に決められた相手と結婚するから、今のうちに慣れておくという意味合いを込めてのキスの勉強だ。
それに拓人と私は、立場上結婚なんてできなくて……。
「その時は逃げよう」
「えっ……」
「この家、飛び出せばいい」
「だ、だけど」
それは家族の縁を切るに近い。
そんなこと、私にできる?
「なんて嘘だよ、冗談」
「う、そ?」
不安な感情を読み取ったのだろうか。
抱きしめた状態のまま、拓人は頭も撫でてきて。
優しい手つきに心が安らぐのがわかった。
「家族を裏切ることになるからね。
そんな重いこと、美紅にさせられない」
「じゃあなんでそんなこと言ったの?」
拓人がこんな冗談を言うだなんて、珍しい気がした。
むしろ初めてな気もする。



