「でもさぁ、性別も分からないんじゃあねぇ…」



そう、あのとき誰が何をしたのか、顔はおろか、性別すらも思い出すことができない。



でもたった1つ。



優しい、甘い、あの匂いだけはずっと覚えている。




「だから、思い出せなくてもいいかなって。」



「ふ〜ん。」



愛音は不満そうだが、こればかりはしかたがない。




いつか、その時が来たら、思い出せるのかもしれない、と思ってペンダントをもう一度ながめていると、よく知っている男の声が聞こえ再び抱きつかれた。




「あっ!!!!」





その拍子に僕の手からペンダントが宙を舞って、窓の外に放り出された。