嘘と逃避とオモイデ

あわてて涙を拭こうとしたその時、いつまでたっても人のざわめきが聞こえないことに気づいた。

おかしいと思って顔をあげると、私は言葉を失った。


なぜなら私の周りが一面黒に染まっていたからだ。
例えるなら墨汁の中に放り込まれた感じ。


でも、色は墨よりも黒い黒。

その暗黒の世界に私の息づかいだけが響く。

「………なにこれ?」

やっと絞りでた声も、闇にスーッと吸い込まれるように消えていった。