「ほんっと最低!!!」


やっぱり王子様なんかじゃない!!!!

あたしの期待とドキドキを返せ!!!!




「悪かったって。お詫びにそれやるよ」



指さしたのはあたしの手に握られてるピック。



「要りません!!」



「まぁそう言わずに」



ついでにこれも、と言ってポケットから出した何かを投げてきた。


あわてて受け取ると、三角の黒い物体。



「…何?これ」


「ピックケース」





これに入れとけってか…!!




いらないって言ってるのにケースまで寄越した佐伯は、未だに笑いながらギターをしまった。






「俺帰るけど…ひとりで帰れる?」




ちょっと小馬鹿にしたような言い方…むかつく。




「帰れますよ!!」




勢いよくばっ、と立ち上がったけど、バランスを崩した。





もともと貧血気味なのに、急に立ったから立ちくらみが…



やば、倒れる…!



…もしかしたら佐伯が助けてくれたり?

大丈夫かよ、とか言いながら倒れる前に支えてくれちゃったり??

やだ、それこそ王子様じゃん…!!



倒れながらそんなこと考えてたけど





どさっ





あたしの体はあえなく転倒。




「…大丈夫かよ」



「遅いわよ!!」



また期待したあたしがバカだった!!!!



こんな奴が助けてくれるわけないよね…トホホ











「…俺は王子じゃないから」




「え?」




「何を望んでるのか分かるけどさ。俺は王子なんかじゃない」




普通に言ったらくそ寒いセリフだけど、佐伯が言うと悔しいけど絵になる。



目を伏せて床を見つめながら呟くように言った彼は、なぜかとても悲しそうで。



「…佐伯?」




思わず声をかけると





「ほら、早く立てば?」



「あ、…うん」




手を出してあたしが立つのを助けてくれた。






「じゃあね」



「あ、うん。…バイバイ」





髪を整えて、袖を直して。

最後にメガネをかけて音楽室を出ていった彼はもういつもの佐伯だった。