「苦しみなんて変わらない。この先の方がもっと苦しい。ユキの記憶が戻ったところで俺にはもう意味をなさない」

「だが、今のお前を見ていると、いじらしくてたまらないよ。ほんと、単純だよな。何もユキを避けることないじゃないか。彼女はただ記憶を失ってるだけだ」

「お前に俺の抱える問題が簡単に分かってたまるか」

 トイラは苛立って感情を吐き出してしまった。

「トイラ、そうかっかするな。僕だってこれでも心配してるんだぜ。それにもう済んでしまったあとだ。過去のことはどうしようもない」

「だからと言って、俺の失態が消えるわけでもないだろう」

「お前だけが悪いんじゃない。そう責めるな」

 キースの優しさが却ってトイラを傷つける。

 どんなに慰められても、血にまみれた瀕死のユキを思い出して自分を責めてしまう。あんなことは二度とごめんだ。ユキを失いたくない。自分の命にかえても。

 しかし、このままではいずれユキは……

 気を張り詰めたトイラの肩に、軽くキースの手が置かれ、トイラははっとした。