それはそのはず、いまは桜のライトアップだとかで、桜祭りが連日連夜続いていて、桜の木なのも街頭が巻きつけてあってそれがイルミネーションのように照らされきらきらと街中に光り輝いている。人並みを避けながらそれに背を向けて反対側に向かう。早くたくさんの光から目を背けたくて。

「…おい、ちょっと待てって!さくら!」

背後からわたしを呼ぶ声に思わず立ち止まり振り向く。そこには自転車に乗りながらも息を整えながらパーカーの袖で汗を拭っている見慣れた彼。

「翔ちゃん、どうしたの?なんで走って…?」

「何でとか酷いな、さくらを待ってたんだよ。今日最後までって言ってただろ?
裏でいんのに、気付かねえもん。焦るわ」

口調は怒っているようなのに、困ったように眉を下げて笑っている。思わず表情とのギャップに少し笑えてくる。

「えー。そんなこと気にしなくていいのに」

「…さくらになんかあったら、顔向け出来ないだろうが」

「………馬鹿だなあ。何もないよ。それこそ気にしなくていいのに。何年経ったと思ってんのさ」

「でも、」

「吹っ切れたよ、流石に。」

しばしの無言劇。言葉なくただふたり、桜に背を向けながらゆっくりと歩き出す。