「ありがとうございました」

慌ただしくも穏やかな春の日々。わたしが勤務するスーパーもこの季節ならではの催事で大変な賑わいと多忙さがやってくる。
お客様の対応、お礼の言葉と深々と礼をすると大抵丁寧なお辞儀だとお言葉を頂戴する。でもそれは当然のことじゃないかと思いつつも笑顔で「そんなことないですよー」と謙遜をする。
ふと自動ドアの向こう側に視線を向ける、街路樹の桜並木は今年も見事な桃色の吹雪を優雅に散らしながら満開に咲き誇っている。そして今年もまたわたしはあの桜を見ない振りをして、日々を忘れた振りをする。


「お先に失礼しますー」

「お疲れ様ー!夜道はまだ人多いから気をつけて帰ってね」

「あはは、心配ありがとうございます。きっとみんな桜にしか興味ないだろうし大丈夫ですよ。」

ひとりひとりに挨拶をしてからバックヤードか
ら出てひとり夜道を歩き出す。
もう随分と夜が深いというのに人の波は昼間と変わらず一向に減りそうになさそうだ。